トップスレターン

16ターン

潮崎 双目(うしおざき ざらめ)




まだ見ぬ妹への期待と、母への祝いの気持ちを精一杯したためた手紙。
それを送ったのが、半年程前。
母からの返事は、未だ届かないままでいた。
始めの数日の内は、双目もさほどそのことを気には留めていなかった。
およそ一週間程度の間隔でやり取りをしているが、二〜三日のズレが生じるのはよくあることだったからだ。
それから数日が経つと、双目は郵便局側の手違いを疑い、窓口に出向いて確認をした。
だが母の氏名が記載された手紙は、只の一通も届いていなかった。
今の母は身重だ、きっと色々と忙しいのだろう。
郵便局からの帰り道、双目はそう納得することにした。
更に数週間、一ヶ月、二ヶ月と過ぎると、双目の心には次第に不安が募っていった。
もしかしたら母の身に何かあったのではないか、そう考えた時には既に体が動いていた。
電話の受話器を起こして、手早く母の家の電話番号をプッシュする。
声を聴くと寂しくなるからという理由で、これまで一度も掛けたことはなかった。
だが、今の双目は確かめずにはいられなかった。変わらず元気な母の声を。
ただ一言だけで良い、そう願う一心で受話器の向こうに耳を傾けた。

「《お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度……》」

機械的な女性の声。
慌ただしく通話を切ると、今度は一つ一つゆっくり辿るように番号をプッシュしていく。

「《お掛けになった電話番号は、現在……》」

だが、何度繰り返しても結果は変わらなかった。

きっと母に何かあったのだ、双目はそう確信して手早く身支度を始めることにした。
衣服、金銭など二〜三日は凌げるであろう荷物、母が住む家の住所が記載されている封筒を、新品同然のキャリーバッグに詰めていく。
これはいつか母の元に帰れる日が来たら使おうと、購入してからも大事にしまっておいた物だった。
白地に淡い色のリボンが飾られた可愛らしいキャリーバッグを引きずりながら、双目は飛び出すように自宅を後にした。
それから一週間程が経ってから、ようやく母からの手紙が届くことになる。
その中には、『新しい住所と電話番号』を記したメモが入っている。
母は産まれてくる子供のことを考えて、新居に引っ越すことを決めたのだった。
結局のところ、『色々忙しいのだ』という双目の予想は当たっていた。
引っ越しに関する詳細、色々と準備にかまけている間に返事が遅れてしまったこと、
そんな内容が幸せいっぱいの文面で綴られており、最後はこんな一文で締め括られていた。

ここにあなたがいてくれたら、と。
ママはいつもそれを願っています。
いつか絶対に、必ず一緒に暮らせる日が来るから。
だから、それまで元気で。くれぐれも体には気を付けてください。

便箋の隅には、水滴が垂れて乾いたような跡が幾つもあった。
双目がこの手紙を読んでいれば、恐らく家を飛び出すことはなかっただろう。


"いいえ、もしかするとこれはただのきっかけに過ぎなかったのかもしれません"
"塔の上で髪を垂らして待つだけの人生に、少女はいつしか我慢がきかなくなっていたのではないでしょうか?"

"『潮崎 双目』、お塩のような苗字を持つ少女の旅は、こうして始まります"
"そして、少女は二度とこの家に戻ってくることはありませんでした"


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