トップスレターン

11ターン

勝河 隆葉(かつかわ・りゅうは)


――どうかKAPPAと発音してください(とある小説の副題)

* * *
「やあやあ、今日も大漁だ」

そう言うと、ティクティク氏は笑いながらばらばらとお札をまき散らした。

「いつも言うけど、下品よ、ティクティクさん。少しは拾い集める身にもなって」
「おう、これはすまん。嬢ちゃんにどぶさらいのような真似をさせちまったか、ははは!」

かんらかんらと笑うティクティク氏のその顔は、人の形をしていない。河童と名乗る彼ら特有の、扁平な顔。
もうだいぶ見慣れたが、最初は驚いた物だ。

「しかし、本当に今日は多いわね。何かあったの?」
「さすがに目ざといねぇ。いやなに、何やらもめ事を起こした連中がおってな。喧嘩両成敗で隙を見て全員ひょいひょいと」
「警察に見つかって無いでしょうね。最近は犬のお巡りさんでも仕事に慣れたんだから、煩いわよ」

眉をひそめる。盗る事自体に罪悪感を覚えなくなったのはいつからだっただろうか。
まあ、ティクティク氏……スリの名人、いや、名河童……と付き合っていてはそんな感覚も摩耗して当然だろう。。
私の言葉に、ティクティク氏はにぃと笑う。

「小銭は残す、カードも残す、ついでに野口の旦那も1人だけなら。嬢ちゃんのお願いは履行中さ。
 もちろん、それでなくとも足の付くような真似はしないがね」
「あ、そ。ならいいけど……」

くらり、視界が震えた。
またお休みの時間、か。
それを察したのか、ティクティク氏は手を振る。

「では、またな、嬢ちゃん。わしは帰るが、若い衆ともよくしてやっとくれよ」

何も言わず手を振り返すのがやっと。
左手に抱えていた文庫本がぱたりと落ちる。
それとともに、ティクティク氏の姿はかき消え、残るは下品にまきちらされた日本銀行券ばかりなり。

左手で額を抑え、かぶりを振った。

「……は」

自嘲の笑みがこぼれる。
ティクティク氏も言ってくれた物だ。
「どぶさらい、ね。……きっと、私はずっと」

どぶさらいをして生きていくのだ。
彼らと一緒か、1人でかの違いはあるにせよ。

意識が眠りに落ちようとする中、文庫本のタイトルが目に入る。
そういえば、この本は短編集だけれど、私は表題作の片方しか……。


『河童・或阿呆の一生』

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