トップスレターン

15ターン

狼原 良士(おおかみはら りょうし)


「ああん?なんか騒がしいな。マッポでも出たのか?」

空腹に原を鳴らす狼原が、街の人々から露骨に避けられながら路地裏へと差し掛かると、
いつもはどぶ川の様な不愉快な静寂を保っているその場所から喧騒が響いてきた。
サングラスの下の瞳を向ければ、そこには複数の少年達と女が一人。

「はっ、なんだよ喧嘩ただのか。つまんねぇな」

どうやら、見る限りでは不良とその被害者らしき連中が喧嘩をしている様だ。
情勢は何時も通りに悪役たる不良たちが不利。
どんな童話かは知らないが、特殊能力に泡を吹かされているらしい。
狼原はそんな情けない不良達に対し

「まあ、俺には関係ねぇわな。さっさとグッドでパーフェクトな金儲けの準備しねぇと」

当然の事ながら干渉はしない。
一般人の逆襲を受けているのが金持ちならば、助けて金でもせびったのであろうが、
一介の不良が持っているであろう金など微々たるもの。
一食の代金にすらならなそうな行動は極力しないのがこの男の主義なのである。

「ぬぬぬ……いよーし、決めたぜ。確か、今日はこの辺りで乞食共への炊き出しがあった筈だ。
 俺はその炊き出しのフリして糞不味い料理を出して、食った奴らから無理矢理食事代を巻き上げる。
 乞食の奴らは以外に金持ってるからな。毟れるだけ毟ってやるぜ!グハハハハ!」

邪悪な笑みを浮かべながら大もうけを夢想する狼原であったが、
そこでふと自身が立てた稚拙な作戦の穴に気付く。

「あ……?待てよ、よく考えたらこの俺は有名人だから乞食共にも顔が割れてんだよな。
 売り子には代役をたてねぇと、この俺のパーフェクト作戦が失敗しちまうんじゃねぇか?」

そもそもホームレスが金を溜め込んでいるというのは狼原のイメージに過ぎないのだが、
確かに狼原の言っている事は間違っていない。
悪役として無駄に有名な狼原が炊き出しなどしていれば、誰もが詐欺と疑わない事だろう。

「っち、仕方ねぇな……その辺のやつとっ捕まえて無理矢理手伝わせるか。
 ついでに不味い料理も作らせれば、俺の手間も消えて一石二鳥ってもんだ!
 そんな発想が出来る俺、カッコいいなぁおい!」

小声でそう自画自賛し周囲を見渡せば、そこには

紅いヒールを刷いた女。低身長で肥満気味の暗そうな男。ホラー映画に出てきそうな長い髪の女

の三人が居た。三者三様に何かをしているようであるが、そんな事は狼原には関係がない。
どいつもこいつも利用しやすそうだと皮算用してから。三人に聞こえる様な声で恫喝する様に声を出す。

「おいそこのてめぇら!そうだ、てめぇらだよ!こっち向け!
 いいか、俺はこの近辺の乞食共に飯をくれてやる善良なボランティア様だ。
 今から飯を作るから、ボコボコにされたくなかったら深く考えずに俺の言う事を聞くんだな」

狼原は三人に声をかけたが、その全員に反応を期待した訳ではない。
そのうちの一人でも反応すれば構わないと思っていた。
なぜなら、こういう場面で反応してしまうような奴こそが基本的に『カモ』であるからだ。
そういう人間なら、たとえ狼原の事を知っていたとしても暴力で言う事を聞かせられる。
そう考えての言動であった。

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