トップスレターン

14ターン

佐川 琴里 (さがわ ことり)


「うわぁ、やっぱり姫姉ちゃんの仕業だったのか。」

リボンが揺れる。電柱の影からひょっこり、小さな影が飛び出した。
「さっき表通り歩いてたらさ、いきなり男の人があたしの頭の上をぶっ飛んで来るんだもん。びっくりしちゃった。
ひょっとして隣りのお兄さんは姫姉ちゃんの仲間? ちょっと手加減しようよぉ――こっちの人なんか顔ぐちゃぐちゃじゃない・・・えげつな・・・」
口ではそういうものの、琴里はどこか楽しそうに倒れ伏す男達を見下ろす。
「まあ、でも姫姉ちゃんが暴れるってことは、この人達、何か悪いことしてたんでしょう?」
ネズミの風貌の男が中心になって、事の顛末を語った。彼は鼬のワル共に弱みを握られ不当な額の現金をせびられ続けていたらしい。
二人が悪を成敗してくれたものの、使い込まれた金は戻ってくるわけでもなく、彼の表情には落胆の色も少なからず含まれていた。
琴里はそれを見て、おもむろに背中のランドセルを開く。
「そういうことなら得意。任せてよ。」
中にあるものは、もちろん、琴里の能力の根源。少し大きめの絵本だ。

「そこの倒れてるオジサン、生きてる?生きてるなら返事して!」
地面に伸びる男を、彼女は足でちょんちょんとつつく。
「ううーん」
「アンタ、このネズミの旦那からお金貰ったのね?」
「うーん」
どうやら男には意識はないが、条件反射で生返事を返しているようだ。
これは都合が良い。琴里はにやりと笑った。
『じゃあ、そのお金、全額返してちょうだいよ。私が届けてあげるから。』
「・・・う、ん」
チンピラ男はただ唸った。その音にはなんの意思も感情も含まれていなかった。
しかし。
無様な鼬が搾り出すように呟いた「了承」を琴里が聞いた途端。
鼠旦那の頭の上で、カサリカサリと乾いた音が鳴る。
「わーお、鼠の旦那、さすが貯め込んでらっしゃる!」
当事者はあまりの出来事に声を失っていた。ただどこからともなく湧き出るお札に埋もれ、彼は呆然と座り込んでいる。
「これはお礼として貰っておくね。いいでしょ?」
風に漂ってきた一枚をちゃっかり掴み取り、琴里は笑う。
「じゃあ、あたしこのお金でおもちゃ屋に行って来る! 
姫姉ちゃん、バイバイ!今日の夕飯はハンバーグがいいな〜。こんなグチャグチャ惨劇見た後だけど。
横にいるお兄さんも、ちょっとは非力な通行人のことを考えてから喧嘩してよね。
あ、それから私見たんだから、『透明な何か』が財布の束をかっぱらってどこかに向かってったの。
あれ、お兄さんの能力の一部?いくら悪人からと言っても、窃盗は犯罪だよ!」

久実がピンハネした万札を見咎める前に、琴里は表通りへ駆け出す。


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