トップスレターン

44ターン

唐空 呑(とうから どん)



「元々取り壊しが決まっている物件だ。業者が壊す前に壊したって大した問題じゃないさ」
後方で鳴らない呼び鈴を押す佐川ちゃんに僕はそう答え、辺りを見回す。
幽霊長屋の中は、思っていた以上に綺麗だった。
まるで誰かが掃除していたかのように不自然なまでに…
もしかすると、ここにはスリ以外にもホームレスが住み着いている可能性もある。
となると少しばかり厄介なことになるかも知れないな
僕は小さくため息をして、探索を続けた。

慎重に部屋を調べていたが、ホームレスどころか
目的のスリの姿さえ見つかりやしない。
もしかしたら、さっきので逃げられた可能性もあるか…だとしたら参ったな。
と眉を顰めていると佐川ちゃんが話し出す。
「バッカだな。むしろ何も無いからこそ怖いんじゃないか
 一見普通に見えるからこそ、異常が起きた時のショックは大きいだろ
 僕はそういう感は無い方だからわからないけど、
 もしかしたら、本当にトンでもない場所の可能性だってあるわけだし」
ワザと脅かすように佐川ちゃんにそう言って、僕は様子を伺った。
出来ればいまので少しだけでもビビッてくれたら助かるのだが、
これは決して脅かしたいとか、そういう僕個人の欲求の為ではなく
彼女がコレを機に平気で禁忌を犯すのを防ぐための言葉だ。
大抵、こういう廃墟などにそういう類の怪談や都市伝説がつくのは
ただ出そうだからとか、そういう単純な理屈からではなく
子供だけでそんな危険な場所に立ち入らないようにと大人が流行らせるのが通例だ。
なので、現実を見て興ざめしている彼女には是非怖がっていただきたいのだが…
どうだろうか?最近の子は舌が肥えているからな
そんなことを考えつつ、僕は最後の部屋の戸に手をかけた
「?」
今までの感覚とは違う硬い感覚を感じた。
鍵がかかっている。
ということは、誰か居るのか?

すぐさま鐘川のオッサンが呼びかけると、それに応じるように的外れな答えが返ってきた。
女性…少女の声だ。おおよそではあるが、姫郡と同じぐらいだろうか?
一瞬、頭を過ぎったのは『誘拐』というワードだった。
この街に置いてそれは、無意味な行為に近い
何故なら、それぞれが持っている本には脱走防止用のICチップが付けられており
常に衛星から監視されている状態であるが故に、誘拐をしたとしても
すぐに居場所も素性もバレてしまてしまうのだ。
なので、その線は限りなく薄いといえる。
となると、あと考えられることは大きく分けて三つ
1。たまたま住み着いたホームレス(なら何故施設暮らしでは無いのか気になるが)
2。目的のスリ(か関係者)
3。立ち退き料狙いの占拠屋(の関係者)
これぐらいか?どれにしろ不法占拠には変わらないし
床が抜けて死なれたら業者が面倒だろうから、とりあえず、出しておく必要はあるな
僕は考えをまとめると、口の前に人差し指をつけ周りに「静かにして」おくよう促す。
特に大河原に対しては、睨みつけ、鐘川のおっさんと場所を入れ替える。
さっきからコイツの話を聞いていたが駄目だ。
視点が同じ国で生きている人間だとは思えないほど、コイツは世間知らずだ。
今からやる芝居を妨害する可能性が大いにありえる。

とりあえず、一通りの準備を済ませると僕は大きく息を吸い
「ボケたこといってんじゃねぇぞゴラ!!!いつまでここに居座ってんだよボケが!!!」
荒々しい口調と戸の向こうの人間に怒鳴りつけ、戸を二、三度蹴りつける。
いきなり人が変わったような行動をして周りを驚かせてしまったと思い
僕は他のメンツに視線を向け、向こうに伝わらない程度の声で「お芝居だから勘違いしないでくれ」と伝える
そして、僕は鐘川のオッサンにも耳打ちをする。
「立ち退かせ屋とその舎弟ってことでちょっと芝居うってもらっていいですかね
 あぁ別に無理して乱暴な言葉を使わなくてもいいですよ。
 人のよさそうな感じのほうが案外コロっと騙されますし」

そう手短に打ち合わせを済ますと、僕はまた戸を蹴りつける
「さっきから黙ってんじゃねぇぞ!てめぇが立ち退かねぇせいでこっちの仕事がすすまねぇんだよオイ!」

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