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51ターン
唐空 呑(とうから どん)
おっさんもとい、鐘川さんをこの芝居に付き合わせたのは正解だったのかも知れない
いや、芝居というよりも、元々人当たりのいい性格の人なんだろう。
と僕は鐘川さんの問いかける姿にそう思いながら、戸に耳をつけて中の様子を探る。
もしかしたら、声の主以外に何者かが息を殺して隠れている可能性があると感じたからだ。
うまくいけば、ごまかすために指示を出すスリの声が聞けるかもしれないと期待したが…
声どころか、他の誰かが蠢いているような音は聞き取れなかった。
確証はないが、おそらく、この部屋には彼女しかいないのかもしれない。
そうしていると、鐘川さんの問いかけに誘われるように答えが返ってくる。
「しらばっくれてんじゃねぇぞオラ!!!警察だぁ?呼べるもんなら呼んでみろや!!!」
と本職の人間のように道理を無視して、怒鳴り返す。
むしろ警察を呼ぶのなら好都合だ。残念ながらこちらはただの一般市民の集まりだ。
警察が来たとしても、せいぜいこちらには注意しかないし
スリの犯人を追ってきたといえば、逆に彼らも協力的になる可能性も少なくはない
そもそも、この建物自体、電気も水道もガスも止まっている以上、110番にかけることは不可能だ。
いやまぁ携帯電話使えば済む話だけど、満足に充電することさえままならないはずだ。
それはそうと、なんだコイツは?
さっきから言っていることが若干ズレているような気がしてならない。
ホラ、まただ。
両親について聞いたのに、無駄に分かりにくく返してくる。
「テメェ!!!おちょくってんのか」
ダンダンとイラついてきているのか、ついつい本音混じりの言葉が出た。
怒鳴りつけたせいか、次に彼女は分かりやすく自分の身の上話を話し出す。
彼女はさぞ自分の身の上が不幸であるかのように語るが…
僕や、姫郡、佐川ちゃんも同じようなもんだと思う。
というか正直言って、経済的な問題があるならむしろ施設で生活するべきだと僕は思うが…
そんな些細な疑問を気にかけていると、彼女の主張と共に何かの気配が強くなってきていることに気がついた
その時になってやっと僕は理解できた。戸の向こうにいる彼女こそが追っていたスリなんだと
僕は一旦戸の前から離れ、姫郡の案を聞く
「…確かに今ならまだ仕掛けられる前に退くことは出来るか…」
意地でも離れないと言っている以上、すぐに逃げられる心配は無いのかもしれないし
確実な証拠を押さえてからでも遅くは無いか
仕方ない…口惜しいがここは退くほうがいいかもしれ
その時だった。今の今までおとなしくしていた問題児が爆発したのは…
恐る恐る振り返ってみると、そこには蹴破られた戸とドヤ顔の大河原の姿だった。
どうせアレか、ここまでの一連の動作が庶民の遊びにでも見えて、やってみたくなったのだろう。
怒りに身を任せ、大河原に暴言を吐こうとした瞬間、蹴破った戸の向こう側から
複数の河童が大河原に飛びつく、そして、それが攻撃合図のように周囲に潜んでいた河童が姿を現し
こちらに向ってくる。
「アイツだけはケーキ屋に置いてくるべきだった」
もう後の祭りだ。囲まれたこの状態で退くのは難しい
ならばいっそ強硬手段に出て、彼女の本を奪ったほうが手っ取り早いかもしれない
「もうこうなったら突っ込むしかない。佐川ちゃんと先生と共に彼女の部屋にに入ってくれないか
僕らがこっちを食い止めている間に、説得なり本を奪うなりしてくれ」
僕はそう姫郡に伝えると、顔に引っ付いた河童をはがそうとやっきになっているこのアホの襟を掴みあげる。
「お前のせいでこんな目になっているんだ。せめて体を張って責任取れよぉ!」
そう叫びながら、通路に群がる河童立ちめがけ、大河原を思いっきり突飛ばして突撃させた。
「鐘川さん!俺らでここを食い止めましょ…あれ?鐘川さん?鐘川さん」
気がついたら鐘川のおっさんの姿が消えていることに気がついた。
まさか、逃げたか?いや、それとも河童につれさられたのか?
どっちにしてもマズいことになってしまったぞ!
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