トップスレターン

59ターン

唐空 呑(とうから どん)



二方向から迫り来る河童の群れ、それを迎え撃つのは武術の心得など全く無い僕。
正直、食い止められる気がしない。
僕はグローブを握り締めながら、必死に現状を打破する術を考える。
しかし、あちらは易々とそんな時間は与えてはくれない。
「…しまった!」
背後から迫り来る河童の存在に気が付けれどももう遅い。
どうがんばっても反応することが出来ないところにまで迫ってしまっている。

どこからとも無く飛んできた残骸が河童を弾き飛ばした。
僕はふと飛んできた方向に目を向けると…何アレ?

視線の先に居た人物のあまりのぶっ飛び加減に僕は呆然としてしまった。

「え…あ…え…えー!」
そう呆然としている中、姫郡が頼るように状況を伝える様に僕はもう一度驚く。
姫郡から信頼されているということは、味方として考えていいのかも知れない。

とここで僕はあることに気がつく、先ほどまで何の変哲も無い廊下が
まるで砂金でも振りまいたかのようにキラキラとしているのだ。
加えて、そこに居た河童達がまるで溺れているかのように、空中でもがいているではないか!
…恐らくそれが彼女の能力と見ていいのかも知れない。
「あの!あっちの通路にもソレお願いします。」
これはチャンスだ。
いくら河童といえども浮かされてしまえば身動きが取れないことが判った以上、
あとはもうコッチのものだ。
まず、僕は大きめの残骸を手に持ち、盾のように構えると
「ダァァァ!!!」
もがく河童達の群れに突っ込んでいく。
浮いている河童たちは僕の突撃を交わすことも出来ず。
尚且つ浮いているから勢いも損なわれない。
まるでブルドーザーのように河童たちを突飛ばすと視線を背後へ向けた。
彼女の姿はなかったが、既にそこには先ほどと同じように
もがく河童の群れがそこに居る。
「これで仕舞いだ!」
僕は助走を付けて一番手前に居た河童をグローブの着いた手で殴りつける。
踏ん張ることも出来ない河童は玉突のように後ろにいた河童にぶつかった。
しかし、僕の攻撃はまだ終わっちゃ居ない。
「次はもっと大きいぞ!!!」
先ほど殴りつけた河童を倍増した力でもって再度殴りつけた瞬間、
河童の群れはまるで、ヒーローに殴り飛ばされる悪党のように吹き飛んでいった。
「一通りはこれでいいかな?」
あらかた片付けたことを確認すると、
僕は能力を解除し適当な場所に置いていたケーキに手を付けた。

「あぁそうだ…一つ聞きたいことがあったんだ」
今回の元凶を姫郡が取り押さえたタイミングで、僕は部屋へ入室した。
右手にフォーク、左手には1ホールのケーキとカッコはつかないが
今はそれどころじゃない。
「あ…一応廊下に居た河童の群れは片付けたから、逃げるなら今の内だよ。
 ま…その必要もなさそうだけど」
そう周りに伝えて、僕は蔑んだ視線をスリに向けながら近づく。

「さて本題だ。さっき人に干渉されたくないって言ってたけどさ、
 んじゃ、お前はどうなのさ?
 別に僕はお前が仙人のように俗世と離れてどこで住もうが知ったこっちゃないけどさ。
 そういうところに身をおいている癖に、一方的に干渉するのってどうかと思うんだけど…
 どう考えている訳?」
ふうっと一呼吸を入れると、僕は妖精の彼女に視線を向ける。
「ちょっとこれも浮かせてもらっていいですか?」
そう言ってケーキを彼女に預けると、
僕は財布から唯一残っている野口さんを出して彼女に突きつけた。
「これ?何かわかるよな?
 所謂「金」って言われている紙キレだよ。
 力を入れれば、こんな風に容易く破れるし、マッチ1本で簡単に燃える」
演技であれ彼女と会話し、こうして目の当たりにしてわかったことがある。

こいつには明らかに罪の意識が無い。

そして、やたらと自分は不幸だと言い自身の行動を正当化させている彼女の言い草に僕は正直ムカついていた。
だからこそだ、ここで完全に叩き潰す必要がある。
「だけど、こいつが中々曲者でね。
 群れれば聖人きどりな人間の化けの皮を容易く剥ぐこともできるし、
 たった一枚だけ無くなっただけで人の人生が劇的に変わってしまうぐらいの力がある。
 た っ た 一 枚 だ け で も ね 」

心なしか語尾が強くなっているような気がしなくも無いが続ける。
「お前のせいで何人の人生が変わってしまっただろうな?
 んじゃ、改めて聞くけどさ、干渉されたくないくせに
 一方的に干渉してくるお前はなんなの?
 なんの権限があって干渉してくるわけ?
 なぁ…なぁ、なぁ、なぁ!!!
 馬鹿にされたくないとか、蔑まれたくないとか言ってるけどさ、
 人のことナメくさっているお前に言う権利無いよね」

とりあえず、なるたけ抑えてしゃべったつもりだけど、これでも何か言い返してくるなら
正直、僕は冷静で居られなくなるかもしれない。


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