トップスレターン

5ターン

赤堀 君香(あかぐつ・きみか)



赤い靴。
綺麗な真っ赤な、私のヒール。大好きなお母さんが遺してくれた、たった一足だけの赤い靴。

赤いくつ。
貧しい少女が、ずっと赤い靴を履く話。大嫌いなお父さんが遺してくれた、たった一冊だけの本。



――なのにどうして。ねえ、神様。私のお父さんとお母さんは、どうして私の所に居ないの?



「君香ー、もう上がっていいぞ」
「はいはいー、お疲れ様です!」

ゼペット・カフェ、本日も休業中。もとい営業中。ここに客が来る事は殆どない。

胸元でチリンと銀の十字架が揺れ、赤茶色のおさげが陽に照らされてふわりと舞う。
君香はフリルのついたエプロンと支給された給仕服を脱ぎ、いつもの私服へと着換えた。
鏡の前でカチューシャの位置がずれていないか確認。おっと、ほっぺにケーキのつまみ食いの跡発見。
店長に見つからない内にふき取る。これでよし。時計を確認。もうこんな時間。

「それじゃあ、また夜にお願いしまーす!」
「はいよ、帰り道は充分気をつけな。最近、変なのがまた増えて来たからよ」
「それなら大丈夫ですよ!私達には神の御加護がありますから!」

君香はそう言うと笑顔で、胸元の十字架を指でつまみ店長に見せびらかした。鼻で笑う店長。

「神ねえ。そんなのが居たら、今頃俺達ゃここにいねえよ」
「あららー。そんなことばかり言ってるから、このお店流行らないんですよ。きっと」
「やっやかましっ!そんな事言う奴は給料やらねーぞ!?」
「へへーん、そしたら辞めてやりますよーだ。私以外に此処で働きたいなんて人、いるんですかね?」
「こ、こんにゃろ〜〜……じゃあもう来んな!ばーか!!二度と来んな!」

店長の罵詈雑言を背に受けるのもいつものこと。なので君香は気にせずドアへと向かう。
どうせ彼の言っていることは大体あべこべなのだ。
正しいことを言うと鼻の代わりに不運が伸びる『ピノキオ』だなんて、彼も可哀想に。

「…………あー、君香」
「何でしょう?」

「……ボランティア頑張れよ。また明日な」
「――はい!また明日!」

あーあ、きっとまた不運が増えた。難儀な人だ。君香は小さく苦笑いして、店を出た。
今日は君香がいつも通う教会のプログラムで、街の路地裏を拠点にホームレス等を対象にした食事サービスを行う予定だ。
食事を巡ってトラブルも絶えないが、君香は充実感と安心感を得ている。
さて、今日のボランティアは平和でありますように――――いや、難しいかな?

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