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赤堀 君香(あかぐつ・きみか)
赤い靴。
綺麗な真っ赤な、私のヒール。大好きなお母さんが遺してくれた、たった一足だけの赤い靴。
赤いくつ。
貧しい少女が、ずっと赤い靴を履く話。大嫌いなお父さんが遺してくれた、たった一冊だけの本。
――なのにどうして。ねえ、神様。私のお父さんとお母さんは、どうして私の所に居ないの?
「君香ー、もう上がっていいぞ」
「はいはいー、お疲れ様です!」
ゼペット・カフェ、本日も休業中。もとい営業中。ここに客が来る事は殆どない。
胸元でチリンと銀の十字架が揺れ、赤茶色のおさげが陽に照らされてふわりと舞う。
君香はフリルのついたエプロンと支給された給仕服を脱ぎ、いつもの私服へと着換えた。
鏡の前でカチューシャの位置がずれていないか確認。おっと、ほっぺにケーキのつまみ食いの跡発見。
店長に見つからない内にふき取る。これでよし。時計を確認。もうこんな時間。
「それじゃあ、また夜にお願いしまーす!」
「はいよ、帰り道は充分気をつけな。最近、変なのがまた増えて来たからよ」
「それなら大丈夫ですよ!私達には神の御加護がありますから!」
君香はそう言うと笑顔で、胸元の十字架を指でつまみ店長に見せびらかした。鼻で笑う店長。
「神ねえ。そんなのが居たら、今頃俺達ゃここにいねえよ」
「あららー。そんなことばかり言ってるから、このお店流行らないんですよ。きっと」
「やっやかましっ!そんな事言う奴は給料やらねーぞ!?」
「へへーん、そしたら辞めてやりますよーだ。私以外に此処で働きたいなんて人、いるんですかね?」
「こ、こんにゃろ〜〜……じゃあもう来んな!ばーか!!二度と来んな!」
店長の罵詈雑言を背に受けるのもいつものこと。なので君香は気にせずドアへと向かう。
どうせ彼の言っていることは大体あべこべなのだ。
正しいことを言うと鼻の代わりに不運が伸びる『ピノキオ』だなんて、彼も可哀想に。
「…………あー、君香」
「何でしょう?」
「……ボランティア頑張れよ。また明日な」
「――はい!また明日!」
あーあ、きっとまた不運が増えた。難儀な人だ。君香は小さく苦笑いして、店を出た。
今日は君香がいつも通う教会のプログラムで、街の路地裏を拠点にホームレス等を対象にした食事サービスを行う予定だ。
食事を巡ってトラブルも絶えないが、君香は充実感と安心感を得ている。
さて、今日のボランティアは平和でありますように――――いや、難しいかな?
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