トップスレターン

18ターン

詩乃守 優(しのかみ ゆう)


「……うん、これで大丈夫」

 翡翠色に輝く一枚の薬草。それを子どもの腕被せ包帯を巻きながら私は呟いた。
 ほんの十秒前まで痛みで泣いていた子どもは、その痛みが嘘だったかのように笑みを浮かべている。

「わあ、もう全然痛くないよ! ありがとう! お姉ちゃん!」

 そんな満面の子どもの笑みに、私は僅かに顔を綻ばせる。

「……ん、お礼は、いらない。それよりも、怪我に気を付けて」

 私はそれだけ言うと、使いもしない医療器具が入ったトランクを持ち、子どもに背を向けて歩き出す。
 後ろから浴びせられる子どもの感謝の声に、多少身体をくすぐられる様なむず痒さを感じる。
 やがてその声も聞こえなくなると、心に残るのは微かな空虚感。
 私は一体何をしているのだろうか? 何の為にこんなことを?
 隔離されたこの街で根無し草に歩き回っている私は一体何者だろう?
 そんな考えを邪魔するかのように、くぅ、とお腹が空腹を訴える。
 白衣のポケットに入っていた一欠けらのクッキーを口に頬張り、空腹を訴えてるお腹を黙らせる。
 これで食料も尽きた。 能力行使や寿命で死ぬ前に私は餓死で死ぬのじゃないだろうか?
 お金も尽きた。食料も無い。明らかにチャックメイトが掛かっている。
 ま、それもいいか。一応、私の能力で未来ある子どもを結構救えたのだ意味のある人生だ。
 では、命尽きるまで歩いてみよう。歩けなくなった時が、私の死に時だ。

 手に抱えた一冊の本を取り出し、ぱらぱらと最後のページを捲る。
 
 自らの欲の為に死神の力を使った男は、その死神によって命を絶たれた。
 でも私は男を愚かだとは思わない。少なくとも彼は人を何十人と救ったのだ。
 その見返りが少しはあってもよいだろうに、自らに与えられた本を読む度に私はそう思う。

 まあ、私は自らの欲を満たす前に、自分の命を使い果たしそうだけど。

 パタンと本を閉じ、私は再び歩を進める。目指す場所のない一人旅。死んだらそこまで、それもまあよいだろう。



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