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唐空 呑(とうから どん)
彼女が最後の一人を打ち据えている間、僕はそれを見ていた。
なんとか、何とか見れていたというのが正しい。
何故なら、僕は今猛烈な空腹と倦怠感で立っているのがやっとの状態だからだ。
能力を使用した後はいつもこうだ。
三匹目のがらがらどんがトロルを谷へ突き落とした後、
丸々と肥えるほど三匹が草を食べたように、僕の能力は使用すると異常なまでに腹が減ってしまう
というやっかいな特性がある。
三人目の男が倒れると同時に、僕も立つのが辛くなりその場に倒れこんだ。
幸い、先ほど見かけたグラサンはこちらには向ってこなかったが
ここから一人で目的の店に向うのは難しいかも知れない。
朦朧とした意識の中、小さな女の子の声が聞こえる。
話ぶりから察するにあの女の子の知り合いのようだ。
何者かに金を奪われたといわれた瞬間、僕は恐る恐る財布の中身を確認した。
「…んっだよ」
小銭は無事だったが、そこそこあった札が千円札一枚だけになっていた。
その瞬間、疲れがドッと増したように感じ、うな垂れた。
怒りやその他諸々の感情は湧いたが、何分腹が減っているせいか
ただ絶望に似た感情だけが胸中を渦巻いている。
そんな中、あの女の子が駆け寄ってきた。
「いや…殴られてはいない…ただ腹が減りすぎて」
『ボルルルルルルル!!!』
会話を遮るように腹は雄たけびのような音を上げる。
「悪いんだけど、そこの角を曲がったところにあるケーキ屋まで肩を貸してくれないか?」
情けないが、今はこれしか方法が無い。
「うんまぁー!うっは超うめー!」
ヘンゼル亭の喫食スペースにて僕は我を忘れてショートケーキ(1ホール)にがっついていた。
ケーキの代金については、謝礼という形で「ネズミ」の人に立て替えてもらった。
出来ればショートケーキではなく、あのセットにしたかったが、
残念なことについさっき最後の一個が売れてしまったらしい。
ふと、視線を前に向ける。
目の前にはさきほどここまで連れて来てくれた彼女がそこにいる。
というより、僕が無理やりつき合わせたのだが
「…悪いね。初対面なのにつき合わせちゃって」
彼女の様子を伺いながら、僕はケーキを口に運びつつ話を続けた。
「ちょっと話がしたくなってね。とりあえず、自己紹介からしようか?
僕は唐空呑、本は『三匹の山羊のがらがらどん』職業は見ての通り学生だ」
ただのショートケーキでここまで旨いとなるとあのセットはもっとなんだろうな
僕はそんなことを考えつつ、彼女、姫郡の自己紹介を聞いた。
「お互い聞きたいことはそれなりにあると思うけど、先に僕の話を聞いて貰いたい
どうしてこの街はこんなに物騒なんだろうね?
ただ歩いているだけでトラブルに巻き込まれ、こんな風に金をスリとられる
運が悪ければ殺されることもありえるかもしれない。
それで考えた。なんで皆こんなに節操がないのか?
そしたら、この街にあることが無いことに気がついた。
この街はただ隔離してあるだけで、本に対してどう向き合うべきなのか、それを考え行動する
機関や組織が全く無いんだ。どうりで多いわけだよ」
皮肉るように笑い、僕は話を続けた。
「原因が分かったなら、あとは動けばいいだけなんだけど
ただの学生がそこまで出来る訳がない…僕はいつもそこで諦めてた。
ついさっきまではね」
先ほど空腹のせいで紛れた怒りが沸々と湧き上がるのが分かる
「さっき金をスられた瞬間、ガマンの限界が来たね
もううんざりだ。こんなイカれた街で平穏を保って生活なんか出来はしない
誰もやらないなら僕がやってやる。そういう組織を作って徹底的にこの街を変えてやる
…悪いね。ちょっと力が入りすぎた。
まぁ要約すると『自警団+本の社会的活用法を考え実行する組織』を作ろうかなっていう話
とここまで長々と話を聞かせるために君を付き合わせた訳じゃない
出きれば、一緒にやってみないか?
本格的にそういう組織として動くことになれば、敵対する人間による妨害をうける可能性がある
その時のために腕の立つ人間も欲しくてね」
思いつきでここまでやってしまったが、彼女は乗ってくるだろうか?
常識的に考えて見ても、100%断られるのが目に見えてはいるが
「まぁ入るか入らないかは今答えなくてもいいさ
とりあえず、僕はこれから僕の金をスリとった奴を取っちめに行くつもりだけど
どうだい?暇潰しのつもりでもうちょい付き合って見るか?」
【姫郡さんをスカウト】
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