トップスレターン

24ターン

詩乃守 優(しのかみ ゆう)


 大人は誰も私を救おうとしてくれなかった。だから、私も大人を救わない。

 パチリと目を開けばそこは公園だった。滑り台にブランコ、シーソーに砂場、様々な遊具が並んでいる。
 幼い頃、大体の人が来た事があるだろう憩いの場。そんな公園のベンチに私は身を横たえていた。
 一瞬何故自分がこんな所で寝ているのか分からなくなるが、それも一瞬の事。

 ……あぁ、昨日は、結局歩き疲れてここで野宿したんだっけ?

 モノを盗られた形跡はない。そもそも、盗るほどのモノも無いけど。
 あるとすれば医療器具の入ったバックか、本ぐらい。どちらも枕代わりにしていたので取りようもないが。

 私は一度大きく欠伸をし、両手を伸ばすと、パキパキと身体が音を響かせる。
 それと同時にお腹が、くぅ、と音を発し空腹を訴えた。
 昨日はクッキー一欠けらに水道水……今日はクッキーの一欠けらも無いから水道水のみ。

「……お腹へった」

 公園の水道から水を飲み、誰に言うでもなくポツリと呟く。自然と口から洩れた言葉だった。
 この時代にこの年齢で餓死とは中々あり得ない死に方だ。新聞の片隅位には乗るかもしれない。
 そんなくだらない考えごとをしながら私は歩き出す。歩けるうちはまだ大丈夫だろう……、足取りは少し怪しいけれど。
 歩き出して10分もたった頃だろうか、甘い香りが鼻腔を掠めた。
 気が付けばスイーツショップの前。どうやら無意識に香りに引き寄せられてしまったようだ。
 途端に、くぅくぅ、と身体は食料を要求し、口内からは無意識に涎が溢れる。
 だが、私は生憎の文無しだ。犯罪を犯してまで食料を得る気も無いし、そもそもそんな能力は私に備わっていない。
 こんな所で小汚い女が突っ立てても店にとって営業妨害だろう。
 私は、ふぅ、と小さな溜め息を吐くと、再びふらふらとした足取りで歩き出した。

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