トップスレターン

29ターン

詩乃守 優(しのかみ ゆう)


【Link:橘川 鐘 25ターン】 【Link:大河原万次郎 26ターン】 【Link:佐川 琴里 27ターン】

「どうしたんだい? お嬢さん」
 
 スイーツショップからふらふらと立ち去ろうとした矢先、後ろから呼び止められる。
 振り返ればオジサンと小さな女の子。自然に考えれば親子だろうか?
 私がそのオジサンの言葉に答えようとした時、くぅ、という音と共に『お腹がすいてます』と身体が自己主張する。
 堪え性のない身体にかなりの恥ずかしさを感じた。恥ずかしさの余りに顔が熱を帯び赤くなるのが分かる。

「今ちょうどおやつを食べようと思っていたところなんだ。良ければ一緒にどうかな?」

 それでもなんとか体裁を取り繕おうと私は掛けられた言葉に冷静な風を装い返事を返す。
 無論、他人から見れば悲しい努力であろうが……。

「……ん、いえ、結構です。私、お金持ってないですし。
 それに、私みたいな汚い人が居ては気を悪くする人も、きっといます。なので、私は」

 遠慮します、と続けようとしたところで再びお腹が、きゅ〜、と鳴った。
 今度は取り繕える小ささではなかった、まるでお腹に小動物でも抱えているのか? と錯覚するような音。
 どうこの場を取り繕い離脱しようかと考えていた時、店内から演技掛かった口調が響いてきた。

「おぉ、君達は私を歓迎する為に現れた庶民ではないかね?」

 どのような環境にいてどのような教育を受ければこんな言葉遣いになるのだろうか?
 その言葉にいち早く反応したのは一足早く店内に入っていた女の子。

「そ、その独特なイントネーション、パリッパリのホワイトスーツ、何より舞台化粧かと見間違うほど濃ゆい眉毛…あんたは! 資本主義の悪しき権化、大河原万次郎!」

 女の子は一拍間を置いた後、大声でその男の名を呼ぶ。
 こんな小さい子でも知っているのだからきっと相当な有名人なのだろう。
 一か所に留まらない根無し草で年中貧乏な私にはきっと一生縁の無いような人物だろうというのはその身なりから容易に想像できた。

「噂には聞いてたけど、なんたるブルジョワジー…こんなところに何しに来たのさ。」
「私はこれからス・イーツなる庶民の食事を楽しむところだ。」
「大河原財閥の富をもってすれば専属パティシェを雇って食べ放題だろうに…
 さてはあたしら庶民を馬鹿にしようって魂胆だな?
 ねえ二人とも。こんな店出ちゃおう、きっとあいつ札束見せびらかしながらケーキ食うよ?!」

 がうがう、と犬のように男に噛みつく女の子、金持ちが嫌いなのか、それとも彼個人が気に入らないのか……。
 というか、私はいつのまにか人数に加わってしまっている。私みたいなのがいるのは明らかに場違いだろう。
 というよりも、何よりもこの親子(?)の団欒に水を差すのはよくない。

「……あの、私は」

 私が改めて断ろうと言葉を発しかけた時だ。

「君達の分も、金銭を払おうではないか」
「貴方のことはこれ以降、若殿と呼ばせて頂く。」

 この彼の一言にて完全に女の子は180度態度を翻す。その転身ぶりは見ていていっそ清々しい。

「それがし、佐川琴里と申す者。人呼んでツバメ返しのお琴でござる。
あ、小姓殿、水とおしぼり三人分追加で。

 テーブルの上には既に人数分の水とおしぼり、完全に逃げ場を失った……。
 ここで断ってしまってはかえって失礼に当たるかもしれない。
 私は席に着く前に周りのお客さんに謝罪の意味を込めて頭も下げる。
 そして目の前の親子(?)と大河原さんにも頭を下げる。

「……ん、あの、家族の団欒に水を差してしまったようで申し訳ありません。
 それと、大河原さんも、その私みたいのが同席してよいものか……えと、ありがとうございます、ごちそうになります」


 言い終えた後、あ、と思い出したかのように声を上げる。

「……私、詩乃守 優と言います。あの、よろしくお願います」

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