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54ターン
詩乃守 優(しのかみ ゆう)
【勝川 隆葉 49ターン】- 【姫郡 久実 53ターン】
本当に帰りたい……もうこれは素直な私の本音だった。
帰る場所など無いけれど、いつまでこの出来過ぎた演劇を観賞しなければならないのか。
こんなのだったら外で怪我をした子ども達を探してたほうがよっぽど有意義だ。
正義の味方さん達と少女の話を半分聞き流しながらそう思った。
>「……唐空君、今は混乱しているようだから出直そうか」
橘川さんの言葉に私は反応する。あぁ、ようやく解散の流れですか。
そう嬉々と態度と言葉に出さなかったけれど。
と、その時だ。何を思ったか大河原さんが戸を蹴破った。しかもドヤ顔だ。
それが引き金となったのか、大量の河童?らしき生物が現れる。
咄嗟に姫郡さんが庇うように私と琴里ちゃんの前に立つ。その手には緑色に輝く木刀が握られていた。
いつの間に、そう一瞬だけ思案するがソレが姫郡さんの能力だとすぐに納得する。
それにしても……失敗したなぁ。私は軽く、いや大分後悔していた。
何度もシュミレートした逃走ルートは河童?と、そして私達を庇おうとした姫郡さんによって封鎖されている。
これは無傷で逃げられる可能性が低くなってきた。最悪、この河童に殺されるかもしれない。あぁ、メンドクサイ。
途端に気分がダレる。メンドクサクなる。どうでもよくなる。
まるで此処ではない別の空間からTVでも見てるような感覚に私は陥った。
>「もうこうなったら突っ込むしかない。佐川ちゃんと先生と共に彼女の部屋にに入ってくれないか
僕らがこっちを食い止めている間に、説得なり本を奪うなりしてくれ」
大した無茶振りだ。この状況の中どうやって少女の元に行き、本を奪えというのか。
いまだわさわさと湧き出て来る河童達。両手を上げて『逃がしてください』とお願いすれば通じるだろうか。
多分、無理だろう。淡い願望だ。私だけでも逃がしてほしいモノだが……。
>「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! 妖精戦士ティンカー・ベル参上!
共にここを食い止めようではないか!」
>「男性が二人、捕まっています。足止めと、出来れば救助を!」
もう何が来ても驚かない……。それが例えアニメの中でピンチの時に予定調和の如く都合よく出現する美少女戦士でも……。
はっきり言って全てがメンドクサクなっている。この状況も、何もかも。これを人は自暴自棄と言う。
私は姫郡さんに誘導されるがまま、少女の部屋に踏み込んだ。予想通りの居心地のよさそうな狭い部屋。
今夜の宿に使えないのがとても残念。空気を読まずにそんな事を考える。目の前にはこちらを睨み付ける少女の姿。
唐空さんと謎の美少女戦士、それと大河原さんでどれ程の時間を稼げるだろうか。
私は軽く溜め息を吐き、姫郡さんと琴里ちゃんが言葉を発する前に口を開いた。
「……あの、逃がしてくれません?」
今までの展開についに限界が来たのか私はついに本音をぶっちゃける。
いきなりの敗北宣言にその場に変な空気が流れる。が、私は空気をまるで読まずに言葉を紡ぐ。
「……ん、いや、私はほら正直、貴女がどう能力を使おうが勝手だと思ってます。貴女には微塵の興味もありませんし。
私も自分の都合で能力を使ってるから貴女をどうこう言う資格もないですし。
それに、話半分に聞いてましたけど、人と接するのが嫌ならソレも結構だと思います」
言葉の最後に、1人で勝手に生きて勝手に死ぬのもまた人生ですし、と付け加える。
私も15歳あたりからそうやって生きてきたし、そしてこれからもそうして生きていくだろう。
無論、ここを生きて出られたらの話だが。
「……私は貴女に危害を加える気はありません。能力も戦闘向きではありませんし。
なので、逃がしてくれると大変有難いのですが……」
そこまで言うと、私は小脇に抱えた本を少女の足元に放り投げる。
ついでにトランクと、隠し持っていた鈍く輝くメスも少女の前に同時に放り投げた。
「……逃がす気がないならそれで私を殺してください。本を手放しているので能力は使用できません。
無傷で此処を出るのは難しそうですし、正直こうなっちゃうと無理矢理逃げるのもメンドクサイいんで。
ちなみに痛いのは嫌なので出来れば即死させていただけると嬉しいのですけど……。
……あ、それとも、私を人質にとって逃げてみますか?人質の役割を果たせるか疑問ですけど」
私は無気力気味に勝手に要求と本音を突き付ける。我ながら無茶苦茶だ。後ろの2人も呆然としている事だろう。
しかしまあ、もしかすると近いうちに餓死してた命だし、今ここで失ったって遅いか早いかだけだ。
それに、私の場合、能力を使い過ぎて寿命だってもうそんなに残っていないだろう。長くて10数年ぐらいだ。
ともかく、殺すなら殺す。逃がすなら逃がす。人質にするなら人質にするで早く決断してほしい。
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