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66ターン
姫郡 久実(ひめごおり くみ)
パジャマは、施設の中学女子組がそれぞれ1着ずつ提供することにして。
長ーい髪は、寝癖がつくと大変なので、整髪ウォーターをつけて
櫛とブラシで丁寧に梳かして、三つ編みのお下げに結って。
色々されても目を覚ますことなく、まだ彼女はこんこんと
布団の上で眠っている。
「……」
井沼さんからのメールを読み返し、久実は改めて溜息をついた。
やはり、「彼女」=隆葉さんがあの長屋に近いうち居られなくなるのは
確定だったのだ。
不動産屋さんや工事業者さんが、河童の被害に遭う前に彼女と接触できたのは
幸い、というべきだろう。
その意味では、彼=唐空さんによる迅速な提案と行動は正解だった。
ただ…今後も行動を共に出来る相手かと言うと。
(ちょっと…ね)
【Link:橘川 鐘 65ターン】
そうこうするうち、橘川店長が顔を出した。
院長が出迎え、昨日のお礼を申し上げたりお茶をお出ししたり。
警察からのメールについても(琴里が聞き耳立ててないか確認して)
応接室に同席させてもらい、報告する。
状況証拠と、彼女が目覚めてからの自供…まだまだ話はこれから。
「……あとは彼女自身に任せるのがいいんじゃないかな」
その店長の言葉に、ふとTV時代劇にもなった小説の内容が思い浮かぶ。
人情の機微に通じた火付盗賊改方長官の密偵として働く、
罪を赦された…元盗賊達。
「そうですね…それしか、ないですね」
もっとも…彼女自身が新しい生き方を選んだとしても、今度はあの河童達を
どう御するかが問題になってくるだろう。
彼らにとっては、人間社会のルールやお約束事も「滑稽な」の一言で
片付けられてしまうのだから。
隆葉さんも、最初は罪の意識に苛まれたり、河童達のマイペースぶりに
振り回される日々だっただろう。
しかし、慣れというものは恐ろしいもので…異常な状況もやがては普通に
なり、その状況に応じた「役割」を果たすのが当然と思えるようになって
くる。
何とか心理学入門、みたいな本にそんなことが書いてあったような。
それまで黙って話を聞いていた院長先生が、口を開いた。
「…なるべく軽い保護観察処分で済むよう、私からも出来る限りの
口添えはしよう。身元引受人として、ね」
久実は何も言わず、ただ…コクリとうなずいた。
と、井沼刑事から追加のメールだ。
「『街の外』に住む勝川隆葉くんの親戚数名…
遺言書の偽造と遺産横領容疑で、地元警察が聴取中」
……!
『あなたも私に生きるなというのね』
貴女はあのとき、そう言ったけど。
貴女のご両親は…きっと、あなたに生きて欲しかった。
彼女が目覚めたら、まずそのことを伝えよう。
久実はそっと、潤みかけた瞳を指で拭った。
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