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63ターン
姫郡 久実(ひめごおり くみ)
【Link:唐空呑 59ターン】
廊下から、河童達の「クェエエ!」「クワァグ!」という悲鳴が響く。
なるほど…3発しか技を放てないなら、ボウリングか将棋倒し戦法、と
いうわけか。
その点、久実は素直に唐空さんの機転には感心していた。
【Link:唐空呑 59ターン】
本を奪われた「彼女」は、急速に脱力し…目の焦点も定まらなくなる。
あれだけの数の「河童」を召還していたのだ、その反動による疲労も
すさまじいに違いない。
案の定、目に見える形で持っていた本はダミーだった。
BOOKS能力の源となる本は「一冊一物語」でなければならない、と
いうのが鉄則。掌編、短編、いくつもの章からなる長編にせよ。
極めていた「彼女」の手首から自分の手を離し、必要以上に関節や筋を
傷めつけてしまっていないか確認する。
唐空さんが足音も荒々しく部屋に入って来て、「彼女」を糾弾しはじめた。
久実は押さえ込みの体制を解除すると、今度は「彼女」の身体をそっと
抱きかかえる。
──濡れているわけでもないのに、「彼女」の体温はまるで長時間
水の中にいたかのように、冷たかった。
>聖人きどりな人間の化けの皮を容易く剥ぐこともできる
自分のことも「正義のヒーローきどりな、暴力的で痛い女の子」みたいに
思われてるのだろうか?
"自称正義の執行人"と"困っている人のための正義の味方"は違う…
人と違う能力を持っている以上、相応の責任も伴う…日々、個人的には
そう自戒しているのだけれど。
能力の反動で、放っておいたら常に餓死の危険がつきまとう(だろう)
唐空さんからすれば、ハラワタが煮えくり返る思いなのも、
分からなくは無い。だが…。
「彼女」を見ると、朦朧としてはいるものの意識はまだあるようだ。
久実は黙って、そっと「彼女」の言葉にも耳を傾けた。
(今夜にでも…『河童』、読んでみよう。芥川全集が図書室にあった
はずだから。
もしも「彼女」のBOOKが『ガリバー旅行記』だったら、結末は
同じように「人間不信」だとしても…事件の様相は全く違ったものに
なったかも知れないな…人間のネガみたいな言動をとる河童と、
人間の理想像を投影した高潔な馬族)
そんな考えが、チラリと久実の脳裏をよぎる。
【Link:詩乃守 優 60ターン】
床に刺さったメスをそっと引き抜き、刃の部分を自分に向ける形で
持って先生にお返しする。
「こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした…危険な目に
遭わせてしまいまして」
改めて、頭を下げる。
>握っていた手を広げると翡翠色の一枚の葉があった
>内臓が捻じれる様に痛む
詩乃守先生の生成した薬草?を「彼女」に含ませると、憔悴しきっていた
彼女の頬に、少しずつ赤みがさしてくるのが分かった。
久実の腕や胸に寄りかかっている部分にも、徐々に人肌の温もりが戻って
いく。
しかし──ほんの一瞬だけ、先生の表情が僅かに苦痛の色を浮かべたのと、
白衣の裏に垣間見えた「…付け親」という活字を、久実の瞳はハッキリと
捉えていた。
(『死神の…名付け親』…!)
元々、武術鍛錬の息抜きで読書を楽しむのが趣味だったこともあるが…
街の自警活動を行うようになってからは必要にかられることもあって、
久実は童話や児童文学の類を片っ端から濫読する習慣を身につけていたのだ。
(もしかしたら、この先生は…ううん、そう考えたら全部説明がつく)
施療行為を通じた、緩慢な自殺。
そんな風に至るまで、この女性はどれだけ…。
【Link:佐川琴里 61ターン】
あ、そうか。
琴里の能力は、本来の持ち主(奪った物はダメ)の同意と、第三者への
転送しか出来ないんだった。
まあ、結果オーライ。
>「ね!ひとまず今日はもう暗いし帰ったほうが良いんじゃないかな!
>誰かあたし達の施設まで負ぶってくれる人いない?!」
「そうだね…皆心配してるだろうし。院長先生にもメールしとくね」
久実はうなずくと、ポケットから本…ではなくスマホを取り出した。
送信先は…懇意にしてくれている、警察署少年課の担当者さん。
あらかじめ打ち込んでおいたテンプレの文章を呼び出し、現在位置の地図と
共に送信する。
『連続窃盗事件の被疑者と本、確保しました。
被疑者は心身衰弱激しいため、今夜は当方施設でお預かりします。
現場の家宅捜索、宜しくお願いします。 "瓜子姫"』
自警活動である以上、けじめはつけないといけない…。
【Link:ティンカーベル 62ターン】
>「あ、ああ」
>別にいいが何故にケーキ!?
ちょっとびっくりした様子のベルさんに、「唐空さんの能力、
維持や発動には大量のカロリーが必要みたいですね」と微笑んで
声をかけ、頭を下げる。
「今回も、ありがとうございました、ベルさんが来てくださらなかったら
どうなっていたか…」
…と、そう言えば大河原さんは?
慌てて周囲を見回すと、背の低い複数の影〜河童ではないようだ〜が
ちょこちょこと動き回って氏を介抱している。
揺れる三角帽子、大きな鼻…中には自身の背丈ほどの金槌を軽々と
担いでいる者もいる。
おそらく…彼らも河童の群とと一戦交えてくれたのだろう。
そうこうするうち、いつの間にか橘川店長も腰をさすりながら
合流してきた。
大した怪我も無いとのことで、ひょいと「彼女」を背負ってくれる。
「河童にもまれているうちに終わってしまったようだな」とは仰るものの、
多分能力を使って切り抜けられたのだろう。
「ところで…あの小人さんたち、店長さんのですか?」
やっぱり気になったので…とりあえず、尋ねてみた。
……
帰り支度が整ったところで、詩乃守先生に声をかける。
「あの、今夜はどうぞ、私達の施設にお泊りください。
お食事とお風呂、それに来客用の寝室もご用意させていただきますので」
お礼をお詫びの気持ちを込めて、そう申し出てみた。
何人かの知人・友人の内、『星のひしゃく』『養老の滝』を持つ2人の
顔が浮かぶ。
生命力回復効果のある飲料を生成できる彼女と彼ならば、あるいは先生の
消耗も…。
(一度、相談してみよう)
すっかり静けさを取り戻したアパートの部屋を去る際、もう一度
振り返って中の様子を見る。
じきに、すられた金品の隠し場所も判明するだろう。
報告や立会いで、明日以降も呼び出しがあるかも知れない。
「唐空さん」
解散する段になって、久実は静かに声をかけた。
「今日のお話の件ですけれど…御縁が無かったということで
参加は見合わさせていただこうかと思います」
何の感情も交えず、淡々とそれだけ告げる。
「お疲れ様でした…さ、帰るわよ、琴里」
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