トップスレターン

38ターン

佐川 琴里 (さがわ ことり)



【Link:姫郡 久実 36ターン】

久実の目は三角に尖って琴里を刺す。
視線の意味など気にもせず、琴里は鷹揚に言った。
「詩乃守先生という貴重な良識派ゲットだぜ!おまけに姫姉ちゃんの簡単かつ的確な紹介まですませちゃいました。」
久実の拳骨が飛ぶ前に、琴里はさっと、詩乃守医師の白衣の後ろに隠れた。



>「んじゃ…はじまりはじまりってことで」

がらがらどしゃーん
木造家屋の儚さを物語る破壊音がした。
「だから...少しは手加減...もうなんでもいいや。」
琴里はそれでも客としての作法に則り、形式的に玄関脇の呼び鈴を二度押す。
中からの反応は無かった。それどころか呼び鈴がちゃんと機能したのかも危ぶまれた。
長屋の家主がはいはい言って出て来るとは誰も期待してはいなかったが、
感じないで済んだはずのむなしい間をたっぷり味わってしまい、失敗したなと琴里は思った。

河童被害対策部隊の隊員達は連なって屋内へ侵入し始める。
湿っぽい。陰気である。なんか臭い。
その程度の感想しか湧かぬ。
遊園地のお化け屋敷のような、血塗られた障子やおどろおどろしい仕掛けを想像していた者は拍子抜けしたに違いない。
何気なく、廊下の手すりを指でなぞると、ちくりとささくれが肌を突いた。
琴里は顔をしかめる。
「ここ、小学生の間じゃ結構有名な心霊スポットなの。長屋にどこまで近づけるか度胸試ししたりね。
院長先生なんかあたしらが悪さすると『幽霊長屋に閉じ込めてしまいますよ!』って決め台詞。
でも実際目の当たりにすると、古き良き日本家屋なんだねぇ...安心したと言うか幻滅したと言うか。」

指先をぺろりと一舐めするとすぐに血は止まった。
あっけない。部屋を一間ずつ改めれば、その分だけ、この場所が持っていた不気味な魅力が薄まる。
「次で最後の部屋だ。あそこに何も無ければ今日のところはお開きかなぁ。」
それはとても眠たげな声だった。
琴里は緩みきっていた。

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