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46ターン
佐川 琴里 (さがわ ことり)
【Link:橘川 鐘 39ターン】 - 【Link:唐空呑 44ターン】
>「油断は大敵だぞ。ボスは一番奥の部屋で待ち構えているものだからな」
「そうだねぇ。道端に転がってる大魔王なんて示しがつかないや。」
携帯用ゲームを遊ぶように両手を空中でぴこぴこし、琴里は自前の効果音を小声で呟いた。
今回の敵がギトギトコッテリのあからさまな悪者河童のような姿であればいいと思う。
ある程度ダメージを与えると第二形態にトランスフォームしたりして。馬鹿なことを考えている琴里を見透かしたような声で、久実は振り返った。
>「…お琴、あんたまた昨夜、こっそり夜更かししてゲームしてたね?今夜はお姉ちゃんの横で寝なさい。見張ってるから」
「なんとご無体なっ!借りてたソフト、明日で返さなきゃいけないの、後生だから見逃しておくんなせえ...」
なんとなく江戸時代っぽい言い回しは、久実がよく見ている時代劇の台詞に由来する。
ヨヨヨとしなを作り、代官に虐げられる町娘を装ってみるが、効果は無いに決まってる。
>「……ん、だったら早めに寝た方が良いです。寝不足はお肌の敵ですよ? 若いうちはまだ実感わかないと思いますけど、ね」
「へへ、授業中に眠るからいいんだよう。あたしなんかより、詩乃守先生の方こそ寝不足っぽい顔してるじゃん!隈あるし。」
そんなのんきな会話をとがめるかのように、前を行く唐空青年が重苦しく口を挟んだ。
内容について、なるほど一理あるなと、琴里は思った。普段優しい人こそ怒った時は超怖いという例の法則だ。
身近に良い例が一人いるので、とても身に染みる言葉である。
だがしかし!
その優しさに漬け込み、ぎりぎりまで自分勝手をし、沸点に到達するかしないかのコーナーを攻めるのが楽しいのである!
人物に限らず、あらゆる物質、事象に対してデッドオアアライブをさ迷う緊迫感!琴里にとってそれは生きる楽しみなのだ。
とまあ、そんな本音は懐中にしっかりしまい込み、
「おお、身に染みる忠告だ。怖い怖い。」
と言った。せめて形だけでも従順でいよう、と自分の悪ガキぶりに半ば反省したのだ。
そう、したのだが、
>「これが庶民の流行の汚・へーアなのだな。」
「若殿も流行の波に乗ってみようぜ。あたしなんか、自分の部屋じゃなくても散らかしちゃう、最先端を走る女だよ。
なんなら若殿の屋敷を劇的ビフォーアフターしたげるし。」
悲しいかな、その決意すら、一分たたず薄れ行く。
青年のドス声が頭蓋骨にぐわんぐわん響く。
突然のことに腰が抜けた琴里はへにゃへにゃよろけたが、久実の腕に抱きとめられてことなきを得る。
どうしちゃったのよ、と叫ぶ前に口をふさがれ、ただ「もがが」とくぐもった音が出た。
それすら唐空青年の執拗な足蹴り音にかき消されるのだ。
「さっきから黙ってんじゃねぇぞ!てめぇが立ち退かねぇせいでこっちの仕事がすすまねぇんだよオイ!」
怒鳴り蹴りバイオレンスの限りをつくしながら、芝居だよ、と青年は目線を寄こす。
それならそうと先に言ってくれ、琴里は恨みがましく彼を睨みつけた。
姿を現さない住人の声は、確かに女性のものだった。
こんなあばら家に独りで住んでいるなんて到底考えられない。
窃盗犯はグループで、扉の裏に隠れている子は無理矢理こき使われているのかもしれない、そう思えてくる。
脅すのは可哀想だな、もしあたしなら泣いちゃうだろうな、
同情的な思いが心の中に現れたがここまで来てどうする訳にもいかず。
琴里はただ、久実の腕をぽんぽんと軽く叩いてもう大丈夫だよという合図を示した。
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